フランス極右と日本の危険な関係①:カルロス・ゴーンの後継者はフランスの大物極右政治家?

フランスの極右たちに愛される国

ヨーロッパの極右の政治家や活動家と聞けば、みなさんはどういうイメージをお持ちでしょうか。極右思想と言えば、やっぱり人種差別と密接に結びついているので、「白人至上主義者」というイメージがあるかもしれません。

しかし、実はフランスの極右活動家や政治家たちの間でとても人気な国が、アジアにあることをご存知でしたか?

その国は・・・日本!

一見、何の接点もなさそうに思える、フランスの極右活動家や政治家と日本社会の間に、どういう関係性があるのでしょうか。そこで当ブログでは、「フランス極右と日本の危険な関係」と題したシリーズで、その知られざる交流を掘り下げてみたいと思います。

その第一弾として、日本とフランスを大混乱に陥れた、日産・ルノーの会長カルロス・ゴーンの逮捕劇の中でにわかにその名が騒がれている、とあるフランス人に光を当てたいと思います。

 

カルロス・ゴーンの失墜とその後継者

先週、衝撃のニュースが日本とフランス、そして世界中を駆け巡りました。

日本の日産自動車、三菱自動車工業の会長であり、フランスのルノーの最高経営責任者でもあるカルロス・ゴーンが、金融商品取引法違反の疑いで、日本で逮捕されたのです。自らの受け取る報酬の金額を、50億円近く過少に報告していたことなどが問題とされています。

カルロス・ゴーンは凄腕の実業家として知られ、日産、三菱、ルノーの経営に長年携わり、絶大な影響力と資産を有している人物として、日本内外でその名をとどろかせてきました。

この世界的実業家の衝撃の逮捕をうけて、いまだ情報が錯綜し、混乱が続いています。11月23日現在、既に日産は臨時の取締役会にてゴーン会長の解任を決定しています。三菱自動車も数日以内には解任を決定するようです。ルノーに関しては、とりあえず会長代行の指名にとどまり、カルロス・ゴーンの解任は見送りました。しかしそう遠くない未来に、新たな会長や最高責任者を指名することは間違いないでしょう。

さて、世界の株式市場が注目をしているのは、その後継者が誰になるのかという点です。日産自動車に関しては、西川社長が権力を拡大させるのではという噂がささやかれています。

そしてルノーの後継者に関しては、11月23日現在、日本では一切報道されていませんが、フランスの複数の新聞が非常にセンセーショナルな、とある人物の名を報じています。

その人物とは、フランスの大物極右政治家のブルーノ・ゴルニッシュです。

 

フィガロの記事などによると、ルノーの株主でもあるこの極右の政治家は、カルロス・ゴーンの後継者としてルノーの次期会長候補に名乗りを上げているようです。既に他の株主との接触も開始し、支持を呼び掛けているとのことです。

現状ではその実現可能性は高いとは言えませんが、仮に彼がルノーの会長になれば、同社が日産や三菱との提携を保持している以上、当然日本社会に大しても大きな影響力を持つことになります。

 

しかしながら実は、このブルーノ・ゴルニッシュという人物と日本社会の関係は、今に始まったことではありません。両者の間には密接なつながりがあるのです。

 

フランス極右界の大物政治家とその危険な思想

世界でもっとも有名な極右政党のひとつであるフランスの国民戦線(国民連合)。露骨な外国人嫌悪や偏狭なナショナリズムを煽ることでフランス国内での支持を拡大する、危険なポピュリズム政党として日本でも知られています。

パリ郊外の超高級住宅地出身の政治家であるブルーノ・ゴルニッシュは、この政党で長年の間、党首に次ぐナンバー2の地位に身を置き、フランス社会でその(悪)名をとどろかせてきました。

現党首のマリーヌ・ル=ペンとの権力闘争に敗れて以降は党内幹部の地位を失ったものの、いまだに党内で一定の支持を集めており、むしろここ数年は再び党内での地位が高まっているようです。

そして1989年から現在まで継続して、ヨーロッパ連合の立法機関である欧州議会議員に選出されています。

 

しかしながら彼を有名にしているのは、その政治的手腕に加えて、カトリック伝統主義と国家主義的に基づいた極右思想に由来する、人種差別的発言や虐殺を否定するようなその歴史認識です。こうした彼の言動に対しては、さまざま批判と責任追及、そして有罪判決がなされています。

とりわけ彼が教授を務めていたリヨン第三大学で発生した騒動は非常に有名であり、彼の危険性が明らかとなりました。その騒動を簡単に紹介したいと思います。

 

実はリヨン第三大学では、ブルーノ・ゴルニッシュのみならず、多くのの学生および教員が人種差別思想に染まっていることが長年にわたって問題視されており、ついにフランス政府はこれを解決するための委員会を立ち上げました。この委員会には多くの歴史学者がかかわっていたのですが、ゴルニッシュは彼らの制作した報告書に対して公の場で反論し、そしてその中で多くの問題発言を行いました。

特にナチスによるユダヤ人絶滅収容所におけるガス室の存在を否定するような発言や、虐殺の犠牲者の数を少なく見積もるような発言に対してはフランス内外から怒りの声が上がりました。また、その委員会の代表者がユダヤ系であることを理由に、「報告書が信憑性に欠ける」と言い張るその姿勢は、明らかに彼のユダヤ人に対する差別的偏見を物語っていました。

こうした問題行動の結果として、ゴルニッシュに対しては大学から停職の処分が下されました。そしてフランスの「人種差別、反ユダヤ主義その他の排外主義的行為を防止する法律」に違反したとして訴追され、およそ750万円以上の罰金および賠償金の支払いと、執行猶予付きの禁固刑を言い渡されました。

 

もちろん彼の差別的な言動はこの事件のみにとどまらず、ナチスの武装親衛隊の元メンバーを大学に招聘したり、イスラーム教徒を中傷するヘイトスピーチを行ったりと、数え切れません。

 

ブルーノ・ゴルニッシュと日本社会

ところでリヨン大学の教授も務めていた極右政治家のブルーノ・ゴルニッシュは、何の授業を担当していたのでしょうか?政治学?ヨーロッパ史?

実はそうではなくて、ゴルニッシュは、日本語と日本文化を教える教員だったのです。彼はフランスの東洋言語研究所で日本研究の専門家として学位を取得しており、なんと京都大学での一年半の留学も経験しています。

そう、極右政治家ゴルニッシュは、日本文化を愛する日本学者であり、日本人女性と結婚し、日本語を話す、そんな日本大好きフランス人なのです。

 

日本文化の愛好者が増えるのは良いことですが、それが有罪判決を受けているような危険な極右思想の持ち主である場合は、歓迎すべきではありません。

特に第二次大戦のナチスドイツによって行われた人道に反する戦争犯罪を矮小化するような言動は、「歴史修正主義」「否定論」と呼ばれ、ヨーロッパでは非常に警戒されています。

こうした思想の日本版と言われるようなものが、残念ながら日本でも一部の右派の政治家の間で浸透しているのは事実です。例えば、大日本帝国によるアジア各国の戦争被害を否定したり、植民地統治を肯定したりする言動が、しばしば行われています。

ゴルニッシュのように日本語を話し、日本との交流を望むフランスの極右政治家が、日本の極右政治家と手を結ぶことで、このような歴史修正主義運動が拡大する危険性があります。

実はそうした危険な兆候は既に現実化しており、例えば「LGBTには生産性がない」などといった極めて差別的な発言で世間を騒がせている自民党の杉田水脈議員は、自身のブログでゴルニッシュとの交流を自慢しています。以下のツイートも、ゴルニッシュの考えを日本で紹介するためのものです。

 

もしもフランス各紙が報じている懸念が実現し、ゴルニッシュがルノーの会長になるようなことがあれば、日本の経済界においてもその影響力は強まり、危険な極右運動の拡大という意味で日本社会全体に大きな負の影響を与えることになるでしょう。

日本で暮らす人びと全体に関係する問題として、こうした極右政治家の行動に注視するとともに、ルノーの後継者問題の行く末を見守りましょう。

 

さて、ブルーノ・ゴルニッシュだけでなく、実は冒頭に書いた通り、ヨーロッパの人種差別主義者や極右活動家の中には、日本文化の愛好者が驚くほどたくさんいるのです。「白人」であることに価値を見出す彼らが、アジアの島国である日本に関心を持っているというのは不思議に思えるかもしれません。いったい日本文化の何が、彼らを惹き付けるのでしょうか?

次回、「フランス極右と日本の危険な関係」の第二回では、日本に亡命するフランスの極右活動家のことを紹介しつつ、そのような点についても迫りたいと思います。