日本、アメリカ、フランス、性的暴力を告発する大きな波

安倍政権と関連のある有名医師による性的暴行事件

まず日本の話から…

まだ全く世の中に知られていませんが、週刊文春の11月23日号に、またもや衝撃的な事件の記事が載っています。

この記事によると、みいクリニックという東京・代々木にある病院を経営し、テレビにも出演する著名な医者の宮田俊男氏(42)が、この病院に当時勤務していた看護師の女性A(24)と、その友人の研修医の女性B(27)に対して、新宿のバーの個室で性的暴行(酒で意識を失わせた上での強制的なわいせつ行為)をしたとのことです。
被害者の女性二人は、宮田氏が席を離れた隙をついて、個室からなんとか逃走したそうです。

その後、看護師の女性Aは、この性的暴行によって受けた精神的ストレスから、宮田氏の経営するこの病院を退職する状況に追い込まれたそうです。

 

宮田氏はこれらの事実関係をすべて否定し、さらには文春の取材に対して「被害者女性は重度の精神疾患で社会障害、適応障害がある」と連呼することで、自身の加害の事実をうやむやにしようとしています。

被害者の二人は、宮田氏を相手取る民事訴訟の準備中であるとのことです。この事件の詳細は、週刊文春11月23日号を買ってお読みください。

 

この宮田氏とは、ただの街の医者ではなく、厚生労働省の官僚となった後、安倍政権において内閣官房の補佐官を務めていた人物です。

性的暴行を働いた加害者が、ただ年長の男性であるというだけでなく、安倍内閣という日本の中枢に密接にかかわる圧倒的な権力者であるという点で、ジャーナリストの山口敬之氏から受けたレイプを公の場で告発し、先月に手記も出版した、伊藤詩織さんの事件とも共通していますね。

 

アメリカから世界へ、セクハラを告発する#MeTooの広がり

さて、ここ数カ月、世界中で同時多発的に発生しているキャンペーンをみなさんはご存知でしょうか。

性的暴行やセクシュアル・ハラスメントを経験した女性たちが、TwitterやFacebookなどのインターネット上のSNSを通して、一斉に力強い抗議の声をあげはじめています。

性的暴行やセクハラが大して問題化されずに横行している社会のあり方に対して疑問を投げかけているのです。

 

そのきっかけとなったのは、アメリカの超有名映画プロデューサーであるワインスタイン氏が働いた数多くの性的暴行に対する女性たちからの告発です。

そして、年齢や人種や国籍を超えて、あまりにも多くの女性が性的暴行・セクハラを経験しているという現実を強調するために、アメリカの女優アリッサ・ミラノさんが、「#MeToo(私も)」というハッシュタグ(SNS上で共通の話題を話すための目印となるフレーズ)を使うことをTwitter上で呼び掛けたことで、世界中でこのような動きが一気に広がりました

 

アメリカではこの一連のキャンペーンの中で、例えば多くの俳優(ダスティン・ホフマンなど)、映画監督(オリバー・ストーンなど)、会社経営者(アンドレ・バラスなど)、政治家(ジョージ・H・W・ブッシュなど)に対して、名指しでの性的暴行・セクハラの告発が続いています。

 

「豚野郎をチクれ!」:フランスの場合

アメリカでのこうした動きの一部については知っている方も比較的多いかと思いますが、このようなキャンペーンはアメリカだけでなく、世界中に広がっています。

ここではその一例としてフランスの状況を紹介したいと思います。

 

フランスという国について、日本では「人権先進国」「男女平等の国」というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、とりわけ公共交通機関や路上でのセクハラについて言えば、日本以上にひどい状況にあると言えるかもしれません。

例えば、フランスの女性がほとんどミニスカートを履かない理由は、単に日本との服装の流行の違いということも大きいですが、それだけではありません。フランスでは事実として公共の場でミニスカートを履いていると、セクハラ被害を頻繁に受けやすいのです。もちろん、どんな服装をするかというのは個人の自由であって、ミニスカートを履いている女性に1mmの落ち度もないことは言うまでもありません。それだけ、公然と行われる悪質なセクハラが横行しているということです。

 

実は、アメリカで女優のアリッサ・ミラノさんが「#MeToo(私も)」というハッシュタグの使用を呼び掛けたそのちょうど前日に、フランスではジャーナリストのサンドラ・ミュレさんが「#balancetonporc(豚野郎をチクれ)」という名のハッシュタグの使用を呼びかけており、フランスではこちらも非常に広がりました。

このハッシュタグは、「あなたに対して性的暴行・セクハラを働いた、性欲の塊のような豚野郎のことを告発しよう」という呼びかけであり、フランス語のスラングを用いた非常に攻撃的な表現となっています。

そのためフランス国内において、(女性を含め)多くの人々から、「このハッシュタグは下品すぎる」などの批判も噴出し論争を呼びましたが、その話題性も含めて、大きな成果を生みました(私自身は、性的被害を受けた当事者が、攻撃的に加害者を告発することに何の問題もないと考えます)。

 

アメリカ同様に、フランス国内においても多くの政治家、俳優、アナウンサー、学者などに対する、性的暴行・セクハラを受けた女性からの告発が相次いでいます。

11月18日現在も、多くの新聞やテレビのニュースなどで、これに関連する話題が連日報じられています。

 

この一連の動きの拡大の中で、フランスのマクロン大統領は昨日、スウェーデンで行われているヨーロッパ・サミットの会場での共同記者会見において、性的暴行を非難する演説を行いました。

また、フランスの大都市ではここ最近、一連のキャンペーンの拡大を反映して、性的暴行やセクハラの撲滅を訴えるデモ行進や集会も活発に行われています。以下の動画はその様子です(フランス語音声)。

 

以上、今回紹介したのはアメリカとフランスの例のみですが、この一連の大きな流れは世界中を駆け巡っており、いわゆる欧米の先進国だけでなく、例えば南米北アフリカなどでも大きな話題と行動を呼んでいます。

 

性的暴行に関する日本の現状

冒頭に挙げた、日本の例に話を戻しましょう。

今回、週刊文春に掲載された、みいクリニックの宮田俊男氏による性的暴行の件についても、そして山口敬之氏による伊藤詩織さんに対する性的暴行の件についても共通して言えるのは、事実関係が立証しにくい状況であるという点です。

その背景には、迅速に被害届などを提出して被害者が性的暴行の証拠を残すことが非常に困難であるという、とりわけ日本社会において深刻な問題があります。

 

性的暴行が発生した際、被害者女性がすぐに冷静な判断をして、証拠保全のために警察や医療機関に相談に行くということを決心するためには、越えなければならないあまりに多くのハードルが、この社会には確かに存在しています。

日本では、被害届を提出するための聞き取り調査において警官からセクハラを受けたり、事件が報道される中で激しい被害者バッシング、セカンド・レイプが発生したりすることも珍しくありません。

 

まして、この二つの事件のケースでは、加害者男性は単なる上司・先輩であるにとどまらず、日本の政権中枢とも密接に関連のある人物となっており、被害届を出すことで想定される将来のリスクは、非常に大きいものとなっています。

#MeTooのハッシュタグで性的暴力の被害を赤裸々に語った女性たちの多くも、これまで被害の事実を口外してこなかった理由として「被害を告発しても、誰にも信じてもらえないと思った」とマスメディアの取材に対して発言しています。

 

日本の警察庁の発表によると、異性と無理やり性交をさせられた経験を持つ女性のうち、その被害を誰にも相談しなかった者の割合は実に67.5%にも上り、警察に相談をした女性は、わずか4.3%に過ぎません。また、警察に相談しても、必ずしもまともに取り扱われ、事件化されるとも限りません。すなわち日本では、実際に発生しているレイプ事件のうち、公に事件化されたものは、ほんのわずか数%に過ぎないのです。

 

私たちにできること

このような状況を少しでも変えるために、私たちに求められていることは何でしょうか。

まず、このような日本社会の重圧の中で、自らの被害経験を語り、抗議の声をあげようとしている勇気ある女性たちに対して、彼女たちを支持する立場をはっきりと表明することだと私は思います。

 

そしてもう一点の大切なことは、自分自身が性的暴行やセクシュアル・ハラスメントの加害者になるかもしれないという意識を常に持つことだと思います。

 

例えば、身近なパートナーや、新しく知り合った相手とセックスをする際にも、お互いの同意に基づくこと(コンセント)がかかせません。

これについては新しい世代のFeministであり、元SEALDsのメンバーとしても知られるWaks(Wakako)さんのブログが勉強になります。性的暴行の被害/加害を避けつつ、恋愛やセックスを楽しむためにはどうすればいいか、ひとりの20代の女性の立場から、若者に届きやすい言葉で書かれています。セカンドレイプ(victim-blaming)についての記事などもとても興味深いですね。

 

また、近年では、性的暴行およびレイプが告発しにくい状況を作り上げる原因として、社会に蔓延するレイプ・カルチャーと呼ばれる文化の存在が指摘されています。この記事ではその内容や問題点については触れませんが、詳しくは是非、こちらのBuzzFeedの記事をお読みください。

昨今のBuzzFeedは、女性の記者・ライター達の手によって、本当に素晴らしい記事がたくさん書かれています。また、その中の一つの記事では、社会学者の伊藤公雄さんが「男らしさ(男性性)」とレイプの関係性について興味深い意見を述べており、男性の方はぜひ一度こちらを読むこともオススメします。

 

(補記)この記事では「男性から女性」に対する性的暴行・ハラスメントについてのみ言及していますが、実際には男性から男性、女性から女性、女性から男性といったパターンや、性別にとらわれないような加害行為も発生する可能性もあります。